こんにちは、講師のサキです。
今回は、ビタミンB1不足と脚気・代謝性アシドーシスの関連 〜エネルギー代謝を踏まえて解説〜についてです。
ビタミン欠乏症のまとめについてはこちらの記事からどうぞ。
ビタミン不足になると様々な症状が出現しますが、なぜビタミンB1が不足すると代謝性アシドーシスにつながるのか、いまひとつ関連が分からないという質問を受けます。
一言で解答すると、ビタミンB1が不足すると、ピルビン酸をアセチルCoAに変換できず、乳酸に変換されてしまうため、代謝性(乳酸)アシドーシスになる、ということです。
では、関連の深い、エネルギー代謝からつなげて解説していきます。
エネルギー代謝とは
解剖生理学で最初あたりに学ぶことが多いので、苦手意識を持つ方も多い分野です。
エネルギー代謝とは、解糖系とTCA回路でATPをつくる反応のことを指しています。
解糖系とTCA回路とATPについてそれぞれ説明します。
ATPとは
ATP=アデノシン三リン酸のことです。
アデノシンに3つのリン酸が結合しており、リン酸を一つ切り離すときに、大きなエネルギーを取り出すことができます。
体内におけるエネルギーを蓄えておく電池のような存在がATPです。
解糖系とは
文字通り、糖を解く=グルコースを分解して、ATPを得る反応になります。
グルコースをピルビン酸まで分解し、ATPを得る反応です。
解糖系は酸素を使わずに、すぐにエネルギーを得ることができますが、少量のATPしか得ることができないというのが特徴です。
(※グルコース1分子につき、2分子のATP)
酸素を使わないので、無酸素性解糖とも呼ばれます。
TCA回路とは(クエン酸回路)
先程生成されたピルビン酸を使って、大量のATPを産生する反応になります。
ピルビン酸は好気的条件(酸素が十分にある状態)の基では、アセチルCoAに酸化され、アセチルCoAはTCA回路の中で酸化されながら、大量のATPをつくりだします。
酸化の反応が回転するように進むため、回路と呼ばれています。
(※グルコース1分子につき、36分子のATPが生成されます。)
グルコース1分子から、解糖系で2分子、TCA回路で36分子、合計38分子のATPを産生されます。
こちらは酸素を使うので、有酸素性解糖とも呼ばれます。
ビタミンB1の役割
ビタミンB1は、ピルビン酸をアセチルCoAに変換するのに必要なビタミンです。
ビタミンB1が不足してしまうと、ピルビン酸をアセチルCoAに変換できません。
すると、ピルビン酸は酸化されることなく乳酸に変換されてしまいます。
結果、ビタミンB1が不足すると、乳酸が蓄積してしまい、代謝性アシドーシスになるということになります。
また、先述の通り、アセチルCoAが生成されないと、TCA回路で大量のATPを産生することができず、体内はエネルギー不足に陥ることになります。
そのため、ビタミンB1が不足すると、体内のエネルギー不足の状態=脚気という病態にもつながります。
ビタミンB1欠乏症状=脚気・代謝性アシドーシスとなるということです。
補足
ピルビン酸をアセチルCoAに変換するのは、好気的条件の基です。
嫌気的条件=酸素が十分に供給されない状態(ショックや低酸素血症、貧血など)でも、ピルビン酸が酸化されないため、乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスになります。
乳酸が増える=代謝性アシドーシス=ショック・低酸素血症・貧血・ビタミンB1欠乏などの状態が挙げられますので、合わせて覚えておくことが重要です。
まとめ
ビタミンB1は、ピルビン酸をアセチルCoAに変換するために必要なビタミンである。
ピルビン酸をアセチルCoAに変換できず、ピルビン酸は酸化されず、乳酸となる。
乳酸が蓄積することで代謝性アシドーシス、エネルギー不足となるため脚気となる。
ピルビン酸は酸素が十分に無い条件でも、酸化されずに乳酸に変換されてしますので、ショックや貧血、低酸素血症などでも代謝性アシドーシスとなる。